整備技術
縁の下を支える重要人物がここにいた
エアクリーナー “ボックス” の大切さ
エアクリーナーのボックスってヒジョ~に地味な存在です。
陰に隠れてほとんど外から見えないし、雑誌なんかでは最高出力(ピークパワー)を引き出す際には邪魔者扱いされてしまいます。
キャブレターを整備するとき、オートバイはクルマと違ってこれを外すのが大変なのもクリーナーボックスが邪魔しているから。
『なんでこんなにフレーム幅ギリギリまで大きくするんだ!外すのも大変なら一度外したら最後、元通りにハマらない...』と苦労されたことがある方も多いのではないでしょうか?
ですが、エアクリーナーの役割はゴミを堰き止めてエンジンの中に入らないようにすることだけではないんです。エンジンが空気を吸い込む際、その空気の流れ込む速度と量を決定しているのがエアクリーナーであり、エアクリーナーボックスの容積なのですね。
では何故に空気の流速が大切なのでしょうか?それは、空気の流速に応じてキャブレターが吐き出す(吸い出される)ガソリン量がオートバイごとに予め決まっているからです。
以前に、空燃比の話をさせて頂きましたが、ガソリンが空気質量に対して多くても少なくてもエンジンは上手に回転しません。そのガソリン量も一定ではなく、高負荷領域ではガソリンを濃くしないとダメですし、低速低負荷状況ではガソリン量を減らさないと不完全燃焼を起こしエンジンが止まってしまうこともあります。また、キャブレターが作り出す混合気の量と濃度は排気ガスの量とか流速に密接な関係があって、その関係性に応じて常に変わってもいるワケです。
キャブレターが複雑に混合気の濃度を変えて調整しているのは解った。しかし、それとエアクリーナーボックスがどう関係するんだ!
という声が聞こえてきそうですが、それは『キャブレターの性能はエアクリーナーボックスに頼っている』という実情があります。1990年代以降のオートバイはCVキャブという“負圧式”キャブを多く採用しております。
これは、『キャブレターの中を通り抜ける空気の流速をコントロールする負圧バルブが、エアクリーナからキャブ入口での空気の流れの緩急で、その開閉の度合いを決められる仕組み』だからです。
へっ?ナンノコッチャ???って感じですか(笑)
簡単に言うと、エアクリーナーを通過した空気の流速が速いと、負圧バルブがたくさん開きます。逆に、エアクリーナーを通過した空気のスピードが遅いと負圧バルブは余り開きません。
水道につないだホースを想像するのが解り易いかと?
チョロチョロ水のときホースの先を潰して出口を塞ぐとビューッと勢い良く遠くまで飛びます。それを蛇口をたくさん開いた状態で同じようにやるとホースの先から出る水は流速がそれほど上がらず、逆にその水圧でホースが膨れ上がって蛇口から外れてしまったりします。
これと同じことがエンジンに起きます。低回転でエンジンが空気を吸い込むチカラが弱い場合は、空気の通路を負圧バルブを閉じ気味にして空気の流速を上げる必要があります。しかし、もっと流速と流量が欲しい高回転時にこれをやると空気の流れを堰き止めてしまい本来必要なスピードを殺してしまうのです。
良くパワーフィルターを使っているオートバイを見ます。このパワーフィルターは空気を吸い込む際の抵抗が非常に少ないので高回転域ではたくさんの空気を吸い込むことができパワーアップが期待できます。反面、低速域では多くの空気が必要以上に高速でフィルターを通過し過ぎてしまう結果、負圧バルブが開きすぎて逆にキャブレター内を通過する空気の流速が必要以下に落ちてしまう状態となります。その結果、低速域でのエンジンの調子が悪くなってしまったりするのです...
この空気の流れが速い=インマニ負圧が強いということでキャブレターから吸い出されるガソリン量が多くなるワケですが、その空気の流速・流量がエンジン回転域と調和しなくなってしまうと不調を引き起こします。
つまり、すべての回転域でその回転域にあった空気の流れが必要なのですが、入口であるフィルターを通過するときの抵抗がメーカー設計値と変わってしまいバランスが崩れることによってエンジン不調を引き起こすのです。これをリセッティングするのは砂浜でダイヤつぶを探すようなものです。極めて大変です。
我が愛車のCB125T改クラブマンモドキも出会ったときはキノコ(パワーフィルター)がついていました。アイドリングすらマトモにしなかったのですが、ノーマルのクリーナーボックスを取り付けたところ非常に扱いやすくなりました。
DEMOTAがノーマル仕様にこだわるのもこう言った理由がゴザイマスです。
では。