整備技術
今のオートバイはABS搭載が義務化されて数年が経過しました。
ABSとは、アンチ・ロック・ブレーキの頭文字を並べたものですね。
英語をそのまま訳すと“固定を嫌うブレーキ”、つまり、タイヤ回転が一瞬でガチンと止まることを防止するシステムのことです。そう、転倒を防止したり、短い距離で停止できることを約束したものではありませぬ。
ABSの正体とは
「タイヤが滑りっぱなしだとハンドル切っても真っ直ぐに進んでしまいます。路面とタイヤの摩擦を一定程度キープして操舵(車両の舵取り)をできるようにします。車体の向きを変えることで正面衝突を回避できます。結果として短い距離で止まることは不可能ではないですが、ブレーキングが上手な人はABS作動より短く止まることもできます。」というモノなのであります。
ABSの仕組みは以下の通りです。
前後の車輪にそれぞれ「車輪速センサー」が取り付けられています。その前後の車輪速は通常であれば同じ速度を計測するものです。どちらかの車輪がスリップすると前後の車輪での速度差が生じます。この差が約20%となったところでABSが作動します。ではABSの作動とは何でしょう?
それは、ライダーの握力の緩急に関わらず、コンピュータがライダーとは勝手なところでブレーキを強めたり弱めたりを繰り返すことを言います。ブレーキフルードの減圧→保持→増圧→保持→減圧を車輪速度差がなくなるまで繰り返すのです。この減圧・保持・増圧をするのが「ハイドロニックユニット」という装置になります。
話を少し戻します。車輪速度差が20%とはどういうことでしょうか。
車輪がスリップし始める、とは「実速>車輪速」の状態になるということです。
(ちなみに「実速<車輪速」の状態は車輪が空転していることを指します。トラクションコントロールが作動するときの状態です。)
実は、タイヤは少し滑り始めたところが最も摩擦係数が高くなると言われており、最も路面をグリップしているのがスリップ率20%のときなのですね。
スリップ率20%とは、例えると実速が100km/hのときセンサーが検知する車輪速は80km/hになるという事とご理解頂くと解りやすいかと。
また、話をハイドロニックユニットに戻しますが、
この装置はコンピュータの指令によって人工的にポンピングブレーキ状態を作り出します。ですが、そのブレーキパッドにチカラを伝えるのは、前後に各一系統づつしかないラインを流れるブレーキフルードです。つまり、ブレーキラインにエアが混入すると機能不全となります。これはどういうことかと申しますと、ブレーキキャリパーの分解清掃する時などブレーキホースからフルードを抜いてはダメです、ということです。これって極めて重要です。ブレーキラインのバンジョーボルトを外すとフルードはダダ洩れしますんで...(対処法は後述)
ハイドロニックユニットにエアが混入してもエア抜きすれば大丈夫。と思う方も当然いらっしゃるでしょう。簡単にエア抜きできないのです。特殊な機械が必要になる場合がほとんどです。メーカーから交換部品として出荷されるときも出荷時にフルードで満たしてエア抜きされたものが出てくるほどですから。
あと、ABSが作動したときの感触を体験された方いらっしゃいます?
『ガガガガ!』という音と共にブレーキペダルにも反力が伝わってきますよね。あれって、ハイドロニックユニットが加圧・減圧をしている油圧の反力を直接に感じているのではないんです。ライダーに「ABSが作動していますよ~」知らせるために別系統で作られた振動なんですって。
人工的なエキゾーストノートを車内スピーカで演出するクルマみたいですね(笑)

ハイドロニックユニットです。

ブレーキディスクの内側にある小型円盤が車輪速センサーです。

このハサミでバンジョー(オイルホース)を挟んでフルード流出を防ぎます。
大事です、これ!