整備技術
DEさんはネジが好きですねぇ。
ネジとボルトの呼び方違いですが、広義での意味違いはないようです。狭義の意味では、ネジは「らせん部分」、ボルトは「本体」のことではないかと。
今回は「らせん部分」の話を一つ。
ネジは締めるときに円筒が伸びて、その金属の「元に戻ろうとする力」で緩まなくなるとお話しました。その構造は、円筒に植物のツルを巻くように三角形の金属線が巻き付いているものです。
締め付け時にボルトが途中で回らなくなったりした場合、その三角形が変形してしまっているのです。これを一般的に『ネジ山が潰れた状態』と言いますが、整備士は『ネジが壊れた』との表現を用います。
その壊れたネジは交換することがベストですが、絶版オートバイには高価または入手困難なシロモノも多数存在します。かくしてネジを修理するハメになります。
ネジの修理方法でポピュラーなのは『ダイス』という工具を使ってネジの変形した部分をキチンとした三角形に整形することです。
しかし、使用されたネジは部分的に極微妙に伸びていてピッチが合わなくなっていることも多いです。そこにグリグリとダイスをねじ込むとネジの三角形部分を根こそぎ削り取ってしまうことになります。
その結果、ネジは回るようになったもののガバガバ・ユルユルになって本来の締付強度が全くでない(ナメる、抜ける状態)という最悪なパターンに陥ることになります。
では、そうならないようにネジを修理する方法ですが、その説明の前に“ピッチ”についてのお話です。“ピッチ”とは三角形のネジ山の頂点とその隣の頂点との距離を指します。ピッチ1.0=ネジ山間隔1.0mmということですね。
このネジ山ピッチを応用した精密測定器があって、例えばピッチ1.0を90度締め込むと0.25mmずつ動くという理屈を利用しております。回った角度で移動した距離が判る原理で、ピッチが小さいほど微妙な差を高精度で計測できるワケです。
ネジ山の修理に話を戻します。
ダイスを使ってゴッソリ削ってしまうのではなく、部分的に「三角ヤスリ」を当てて修正します。実は、三角ヤスリは正三角形をしています。一つの内角は60度です。
そして、メートルネジも“正”三角形のツル巻き構造なのです。なので三角ヤスリがぴったりフィットするという寸法です。(インチネジには内角60度と55度のものがあり、55度のネジには三角ヤスリは使えません。)
潰れた部分に三角ヤスリをコリコリしてやればかなり高い確率で直るのです。
ちなみに正しく直ったかどうかは、ボルトをナットに組み付けてネジ部分が円滑に回る(滑る)かどうかを見るだけです。スムーズになるまで根気よくコリコリし続けます。。。
■ボルトのネジ谷間に溜まった汚れも三角ヤスリで除去します。
■ボルトを組み付けるとき素の状態で円滑に回ることが重要です。
ネジ山にオイルやグリスなどを塗布してはいけません。潤滑剤を塗布すると正しい締付トルクで組み付けることができなくなります。
絶版車の部品は貴重ですから時間は掛かりますが頑張って修理しながら使います^^

ダイスです。
これは雄ネジ M8ボルト ピッチ1.0用です。

市販の三角ヤスリです。
正三角形で一つの内角は60度 メートルねじの修理にはピッタリです。

タップと言います。雌ネジ(ナット)の修正用です。
雌ネジには三角ヤスリは使えません。