整備技術
先日、お客様とオートバイの不具合について深い話をしていました。
好調だったエンジンが突然アイドリングしなくなった。バッテリーを満充電した直後は正常になるものの、30分も走ると元の不調に戻ってしまう。バッテリーの減りも早い気がする
…というオーナー様からのご相談がありました。
ちなみにこのオートバイ、バッテリー、イグニッションコイル、ケーブル&プラグキャップはすべて新品。さらにイリジウムプラグまで採用している万全(に見える)状態です。
初めはキャブレターを疑っていましたが、「バッテリーの減りが早い」というキーワードを聞いて、ん?と感じました。「おっ、これは一旦キャブ犯人説をペンディングして、点火系の不具合を探索した方がよさそうだな」と判断したワケです (;^_^A
■「12V」から「15,000V」を作り出す魔法の箱
さて、本日の本題。
点火系というものの正体は、シリンダー内で火花を飛ばすまでの装置一式のことです。
中々に不思議な世界でご理解いただくのが難しい分野でもあります。そこで今回は、教科書に載っているような正当な説明ではなく、「磁界」という言葉を使わずに比喩を用いたイメージ先行でいってみます。
まず、流れの「下流」から追いかけてみましょう。
スパークプラグで発生する火花は15,000V以上とされています。ですが、オートバイのどこに15,000Vなんて超高電圧の電源があるのでしょう?
答えは「ありまへん」(-_-;)
12Vのバッテリーから15,000Vを作り出しているんです。
その高電圧を生み出す装置が「イグニッションコイル」。12Vを入力すると15,000Vを出力する、まさに「魔法の箱」でゴザイマス。
……というのはウソです (◎_◎;) 比喩でも何でもないデス。。。
■コイルの中で起きている不思議な現象
この箱の中には、鉄芯を中心に2種類のリード線がコイル状にたくさん巻かれています。不思議なことに、この2本のリード線は直接つながっていません。つまり通電していないワケです。
「???」ですね。
では、こういう発想ならどうか (;^_^A
一方のコイルに電気を流すと、あら不思議、もう一方のコイルにも電気を生み出す性質があるのです。
電池がつながっていないのに。それどころか、2つのコイルの「巻き数の差」に比例して、発生する電圧が大きくなるという特性を持っています。
・一次コイル: 100巻
・二次コイル: 10,000巻
仮に100倍の巻き数差があるとします。
この状態で一次コイルに12Vを流すと、二次コイルには100倍……1,200Vが生じるという算数になります。
…とはいえ、これでもスパークに必要な15,000Vにはまだ届きません。10分の1程度です。
逆算すると、一次コイルが150Vまで上がっていれば、二次コイルで100倍されて15,000Vに達する計算になります。しかし、元々の電源は12Vしかありません。12Vを150Vに引き上げる、さらなる魔法があるのでしょうか?
ここも実に不思議な話となっとります (;^_^A
■一次コイル「150V」への跳ね上げ(電気の天邪鬼な性質を利用)
電気には「慣性の法則っぽい」性質があります。※あくまで比喩です (;^_^A
①電気がスムーズに流れているとき: 流れるのを邪魔しようとするエネルギーが発生する
②電気の流れが急に止まったとき: そのまま流し続けさせようと後ろから強烈に押し出すエネルギーが発生する
めちゃくちゃ天邪鬼なんですな (◎_◎;)
これをコイルの構造で説明するとこうなります。
一次コイルに電気をスムーズに流します。電線を長く巻いたコイルは、いわば大きな「容器」です。
スムーズに流し始めると、①の作用(流れを邪魔する抵抗=逆起電力)が働くため、電気をこの大きな容器に満たすには通常より時間がかかります。
そして、一次コイル(容器)が電気でパンパンになったタイミングで、回路をバッサリと断裂(カット)します。
すると今度は②の作用が発動します。
電気で満ちていた回路がいきなり切られたため、「流し続けさせろ!」と後ろから強烈なエネルギーが働き、電気をガシガシ押し出そうとするワケです。
この反動によって、12Vが瞬間的に「150V」という馬鹿デカいエネルギーへと跳ね上がります。
つまり点火装置では、
12V ⇒ 150V ⇒ 15,000V と段階を踏んで昇圧している、というイメージです (◎_◎;)
■電圧低下が招く「失火」の恐ろしい現実
ここで重要なポイントがあります。
逆起電力が働いてコイルに電気を満たすには時間がかかると言いましたが、エンジンのスパークは超高速で連続して行われます。電気を溜めるのに時間をかけていては、エンジンが高回転になったときに点火が追いつきません (◎_◎;)
そのため、通電をいつ開始し、どれだけの時間で溜めるかをコンピュータが緻密に管理しています。
これが「通電時間制御」です。
実際のオートバイでは、発電された電気が調整されて約14.5Vになり、バッテリーを経由(バッテリー出力も昇圧)して車体各部へ供給されます。
つまり理想的な図式は、(12V ⇒) 14.5V ⇒ 150V ⇒ 15,000V です。
では、元となる電源電圧が12.6Vまで弱っていたらどうなるか?
一次コイルに一定時間で蓄えられる電気量が減ります。その為、算数的に一次は125V程度にとどまり、二次コイル出力は12,500V(▲2,500Vの低下)まで落ち込んでしまいます。
こうして末端での電圧降下はハンパないレベルになり、しっかり点火できなくなります。
最後に、
■電圧が下がるとシリンダー内で失火しやすくなる理由をもうひとつ。
スパークプラグを見ると中心電極と接地電極の間は空いています。その間には「空気」が存在します。
回路として成立していない状態です。
空気は本来、電気を通さない「絶縁物質」であり、電気にとっては巨大な壁です。その壁を無理やり破る(絶縁破壊する)ために、とてつもない高電圧が必要になります。
身近な例で言えば「カミナリ」。何kmもの空気層を破って落雷するのも超巨大な電圧があるからですね。
つまり、スパークプラグはいわば「小さなカミナリ製造機」なのです。
DE、ここからが真骨頂!の話 (◎_◎;)
そしてエンジン内部では、吸入・圧縮・燃焼・排気という工程が繰り返されています。プラグが火花を散らすのは「圧縮工程」です。
ただでさえ絶縁物質である空気が、10気圧以上にギューギューに圧縮されているわけですから、そこは「超・絶縁物質」の想像まで超絶した空間です。
この壁を突破してスパークさせるには、さらに巨大な電気エネルギーが求められます。
だからこそ、電源電圧のほんの少しの低下でも、圧縮工程でのスパーク力は加速度的に下落してしまうのですね。
プラグ外して「目視したらプラグはパチパチ飛んでいるな〜」
と思っても、それがそのまま「シリンダー内部でもパチパチ飛んでいる」とは限らない、のでアリマス (◎_◎;)
エンジンの三要素は「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」。
どんな複雑な不具合であっても、起点となるのは常にこの基本です。
それでは、長くなりました (◎_◎;)
本日もご安全に〜🏴
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