整備技術
魔の刻。オートバイの生死を掛けるとき
固着ネジとの格闘
皆さま、ゴールデンウイークは如何お過ごしでしたでしょうか?
こちら作業の進捗が芳しくなく、店休日を設定したものの作業をずっとしておりました (◎_◎;)
まあ、ここで遅れを取り戻しておけば後々ゴールドが生まれるのではないかと、そう自分に言い聞かせていたワケです。。。
しか~し、作業開始の一発目から困難に当たるという漫画みたいな展開がまっていましたとさ。
そう。『ネジが動かない、回らない、外れない』問題、すなわち『固着』です。
今回イの一番に遭遇したネジ固着は半端ない心労と苦労が伴ったのでした (-_-;)
まず程度が悪い。ビクとも動かず、まるで『溶着』したような手強さ満点な状態。
そして部位が悪い。『ブレーキキャリパー』でした。
加えて状態が悪い。インパクトレンチの『ビット』が破壊されて歯が入らないうえ、ビクともしない。。
更に場所が悪い。工具が入るスキマがない。。。
1.5時間格闘の末、なんとか無事にネジを取り出しました。トップ画像の左がそのネジです。そして右はその部品の原型 (◎_◎;)
ドリルで穴を開け、雌ネジ山頂に迫る際々まで攻めた結果外れました。反対を言うと、ここまで削らないと外れない代物だったワケです。
ブレーキキャリパーって高価なんですよ。壊したら弁償額はハンパありませぬ。
固着ネジを外す方法って、一般的には
■CRCを浸透させる。
⇒この場合、最低一晩は寝かせて浸透時間をみませんと効果が出にくいです。
■熱を掛ける。
⇒金属の膨張率の差を利用する方法です。オートバイの場合は、ネジが『鋼』で母材が『アルミ』という組み合わせが多いので有効となるワケです。
アルミは鉄の2倍の膨張率ですから、アチッチにすればネジと母材の隙間が広がるという寸法です。
■インパクトドライバー+ハンマー
⇒ハンマーで柄を引っ叩くと先端のネジ回しが左に回る仕組みを持ったドライバーです。衝撃と振動で固着を緩め、そのスキにネジを回しちゃえという手法です。
これ、母材がガッチリと固定されていない場合には効果が薄いんですよね (;^_^A
■ネジのアタマに切り込みを入れて、その溝にタガネを斜め(できるだけ鋭角に)に当てて反時計回り方向にハンマーで叩く方法。
⇒これって割と難しいものの有効な手法です。ただし、ネジのアタマが母材の表面より窪んでいる場合は使えません。
■逆ネジのネジ外し(エキストラクター)を用いる方法
⇒これってワタシ、重度の固着に対して使えたことがないんですわ。
固着ネジに対してエキストラクターが空転するだけで。固着ネジにハンマーとかで強力にエキストラクターを打ち込んでいかないと。これが存外難しいワケです。
今回はブレーキキャリパーという大変デリケートな部位でした。
ですので、まずバーナーで炙ることはしません。高熱で中のシール類を痛めてしまうこともありますが、キャリパー自体に熱による歪が発生するリスクがあります。
ヒートガンを使って加熱しても、やはりやりすぎは禁物ですから程々にやる。
すると効果なしというイライラマックス状態 (◎_◎;)
あとは、
ネジ部に金属棒を溶着させてバイスプライヤで強引に回す手法があります。
が、高練度な技が必要、溶接機が必要、高熱を掛け過ぎのリスクを考えて、これはやりません。
『マジ詰んだ⤵』
ここまで全てダメでそう思いました。
しかし、DEもここであきらめては以降の整備メニューは全てパーです。
気を取り直して固着ネジを繰り抜くことにしましたと。
M10ネジですから最初は3ミリ径くらいのドリルからスタート。ここでドリルを暴れさせてはキャリパーに大怪我をさせてしまいますからドリル中心部にクボミを作る作業をします。
このクボミによってドリルを安定して回転させることができるように、です。
そして、少しづつドリルの径を太くしていきます。
なぜ中心部をクリ抜くのか?という疑問が出ますよね。
固着ネジって、サビとか焼き付きもありますが最終的には“外周に押し付ける力”が抵抗の本体です。
つまり、締結力=ねじ山同士の面圧(張力)を消すワケでございます。
だから中心をクリ抜くと
■ネジが“薄肉のリング”になる
■周方向の剛性が一気に落ちる
■面圧が抜けて「ただの筒」になる
これをすることでネジ全体に掛かっている圧力を抜くワケです。
な~んて生意気にも書いていますが、
寿命が1週間くらい縮まるような緊張感の中で集中し、結果、運良く取れたのだと思っていますよ。
本職の方は、母材を治具に固定してCNC加工機などで誤差1/100ミリの精度で穴を開ける実力があるワケです。それに比べて一般店には設備はない、固定できない、力が上手く伝えられない姿勢、などなど制約条件の塊なんですぞな。
だから壊れたネジの作業はやりたくないんですよね。
ポッキリとココロが折れる音が聞こえるんです (;^_^A
と、いうワケで、、、
ネジが壊れると誰が作業しても大変!だからネジを壊さないようにしましょうね。
■潮風に晒さない
■走行後に水分や埃を充分拭き取る
■高熱、高圧力が掛かる部位には耐熱グリスを塗布しておく。マフラー取付ボルトなどに有効です。
⇒ただし、ネジ山にグリスを塗布してはいけない場所もありますから注意が必要です。例えばクルマの車輪を固定する『ハブボルト』などです。グリスのせいで締め過ぎちゃうんです。オーバートルクになります。
■一番大事なことは、ネジをいきなりレンチで締め付けないこと。
⇒手で回してネジがスイスイ入っていくことを確認してからレンチを使ってくだされ。
これをせず斜めにネジを入れてレンチでグリグリすると外れなくなるという結果が待っています。
ネジが斜めに入ったら当然手の力では回せないわけです。そこで異常に気付くワケです。つまり、正しく入っているかを最初に確認するクセを付けるのです。
今回は非常に上手くいきましたが、いつも出来る保証はございません (◎_◎;)
どのお店でも5千円を稼ぐのに失敗時5万円弁償リスクが伴う仕事を喜びません。
オートバイのネジは『柔い』という意外な事実を頭にインプットして頂き、ネジの締め方はプロ整備士に教わってやりましょう。
悲惨な結果はネジを締めたときに既に予兆が起こっているものです。
どうぞご安全に。

捻じれて壊れたビット (◎_◎;)

衝撃で欠けました。。。

ここに付いていた蓋ネジでした。。。
失敗したら即アウト!弁償額は数万円 (◎_◎;)

真上からの図。
あとコンマ数ミリでアウトだったろうねぇ。。。
結果的に上手くいって良かった。