整備技術
先日、BMWのジェネレーターカバーからのオイル漏れの修理を実施しました。
何故に漏れるのか?という原因追及もさることながら、外車の修理は大変です。
オートバイ製造の考え方がそもそも違うからです。
ネットなどで同様事例がないかどうか調べてみましたところ、ソレラシキ記事を発見しました。カバーにアフターマーケット品のガードが付いていて、そこの締付が緩いのではないか、という内容でした。
実際にボルトを外すときに「やけに軽く回るなぁ」と違和感があり、更にカバーとクランクケースの接合面から液体ガスケットがブニュ~っとはみ出している状態。4本ボルトを外してガードを取り外すと、抜いたボルトに液体ガスケットのカスがベットリとこびり付き...
そう、このジェネレーターカバーは過去に外されていると確信しました。
その施工がイマイチでオイル漏れが発生した可能性大と考えて、とりあえずそれらのボルトを増し締めしたらイケるかもと思いました。
当店で一番精度の高いトルクレンチを用意して、M6ボルトの標準である10N・mにセットしてボルトを締め込んだとき、不穏な感触と音が...しました。
「パキン!」
ボルト折れました(涙)
この時点で不思議で仕方ありませんでした。M6が10N・mで折れるとは思ってもみませんでしたので。
それ以上に折れたボルトを抜かないとなりませぬ。折れた位置によっては最低の結果となってしまいます。DEさんのココロも折れ掛けましたが、お客様の車両ですから何とかしないとなりません。ボルトを逆回ししてアタマを引き出し、ジェネレーターカバーを外してネジを抜くしかないと判断しました。
結局のところ、オイル漏れの根本治療をするのと同様の作業をする羽目になったわけです。
行程は以下の通りです。
■折れたボルトを逆回しして、少しでもアタマを出しておく。ネジを抜く
■外したジェネレーターカバーとクランクケース両方の合わせ面からガスケットを完全に除去する
■ジェネレーターカバーとクランクケース双方の合わせ面にオイルストーンを掛けて、平面出し(まっ平にする作業)を行う
■合わせ面に新しいガスケットを塗布
■組み付けて、ボルトを締めて完了
こう書くと大したことないのですが、まずジェネレーターカバーを外すのがタイヘン(-_-;)
クラッチレバーを外し、クラッチレリーズレバーとワイヤを外し、カウルの一部も外す。ジェネレーターカバーを引きはがすと、次は中にある複数のスタータギヤや発電機のステータも一緒に引き抜けてバラバラになる。そのギヤの組付けを間違うとエンジンを壊してしまうのに、一気にバラバラになってしまうので正しい状態を記録できないという悪夢...
さらに...フライホイールとステータの間に超強力な磁石があってガッチリくっついてしまうので、ジェネレーターカバーを外すにも元に戻すにも正しい位置決めができない、「何重苦だこりゃ(-_-;)」状態。
DE、やり遂げましたよ 当然。
折れたボルトは無事に取り出しました。
ベッタリと塗りたくったガスケットを除去するのに難儀しました。
合わせ面の平面出しをキッチリやって液体ガスケットは薄ーく濡ればイイんです。たっぷり塗るからはみ出してボルト穴まで詰まらせてしまうワケですね。合わせ面が凸凹であると、いつかはガスケットを突き破ってオイルが漏れてしまうのです。
そして今日の本題。ここにきてやっと。。。すいません。
作業終了後ですけど、BMWの同型エンジンを搭載した別機種のサービスマニュアルを確認できました。
トップ画像がそれです。
締め付けトルクが 「3N」、「90度」と二段表記になっています。これは「塑性域締め」という手法で、それ専用のボルトを用いて行うことが多いです。
初回はすべてのボルトを3N・mで締めて、そのあと二回目でレンチを90度まで回すというやり方です。
ボルトは締め付けることで伸びて、元に戻ろうする反力で部品を接合します。その伸びが限界を超えると元に戻らなくなります。その境界を「降伏点」といいます。
降伏点より手前を「弾性域」、降伏点を超えると「塑性域」といいまして、このボルトは降伏点を少し超えたところの「一番ガッチリ締まる点=伸びが最大になる所」で締め付ける“塑性域締付のボルト”というヤツだったワケです。
このボルトは一般的なスチールボルトと違って降伏点が低く、伸びやすいし伸びたら元に戻らないので、原則は再利用不可なのです。降伏点を超えて締めるとボルトは酷く痛みますから。
そうです。このボルトは過去に再利用されていて、今回二度目の再利用となったため、強度が圧倒的に落ちていたのです。それで簡単に折れました。
どおりで、トルクを10N・mも掛けていないのに折れてしまったワケですね。
そうともしらず、外車を国産車のつもりでイジルと危ないなぁ、これが今回の大教訓でした。
タイヘン勉強になりました(汗)