整備技術
スプリングレート?スプリングプレロード??
スプリングの話
整備車両のキックペダルが戻らなくなりました。
・・・
原因は、キックペダルを下→上に戻す「リターンスプリング」が破断した為と推定しました。
実際、分解して開けてみるとリターンスプリングの破断はすぐに認識できました。しかし、破断した方のピースがまったく見当たりません。
「無いハズがないもの」が無いということはクランクケースの中に脱落したものと判断しました。
まさに悪夢です (◎_◎;)
クランクケース内には常時噛み合い式の変則ギヤが10枚以上も組み付けられています。
もし、本当に破断ピースがケース内に脱落したままだとしたら。
走行中に変則ギヤに嚙みこんで後輪ロックに至る可能性が高く、極めて重大な結果を招きます。
高速道路で走行中いきなり後輪がロックし、しかもクラッチを握ってもロックは解除されない...
なんてオソロシイことでしょう ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
そしてこちらもオソロシイのですが、、、
破断ピースを摘出する際にはエンジンを降ろし、クランクケースを割って、全て分解する必要がある。
膨大な時間と費用が掛かります (-_-;)
そーなっては洒落にならん!ということで、、、特殊な磁石棒を小穴から挿入して、フィッシングすること1時間。釣れました。奇跡的に。
無事にクランクケース内から破断したピースを摘出しました。
折れた箇所の破断面をみて、リターンスプリング破断の原因は明らかに経年劣化と判断しました。スプリングもクチャクチャ伸び縮みさせて20年も経過するとポキンと折れるワケです。
さらに、リターンスプリングの先端が間違った小穴に取り付けられており、これが一つの原因かとも思えます。
つまり、
誤まった組み付けでスプリングの設計プレロード(初期荷重=負荷)を超えてしまっていたところに、始動キックを長年に渡り繰り返したことで金属疲労が進みました。そして最後に破断したものと考察したワケです。
ということでお待たせしました (;^_^A
オートバイには「コイルスプリング」がたくさん使用されています。
ボヨンボヨンと伸び縮みして衝撃を吸収してくれたり(サスペンション)、
楕円形の部品が回転する際などそのヘンテコな形に相手方の部品を追従させてクリアランスゼロを保ったり(カムシャフトとロッカーアーム)
するなど重要な役割を担ってくれています。
特にコイルスプリングが多く使われています。
ここで「コイルスプリング」とは何でしょう?と言ったら意外と答えられないものです。
巻いてあるスプリングだろ?と直訳します。
正解です。
コイルスプリングとは、トーションバースプリング(ねじり棒バネ)を円錐状に巻いてねじり棒の長さを稼ぎつつ容積を集約したスプリングとも言えます。
硬い金属の棒をネジると弾性があり、入力と同等の力で元に戻ろうとします。この時の弾力を利用するのがトーションバーですが、その金属棒の長さが長いほどネジることができる角度が大きくなります。反対に、短い棒だとたくさんネジると折れてしまいます。
むかしのクルマや戦車にはこのトーションバースプリングが使われていました。
ポルシェとかキングタイガーとか。。。('◇')ゞ
この欠点を補い、可動域を広げ、省スペース化することをコイルスプリングで実現できたワケです。
要するに『コイルスプリングは金属棒バネを丸めて棒の長さを稼いだトーションバースプリング』ということであります。
このスプリングの強さを示すのが「ばね定数」というモノサシで単位はN/mmです。つまり「スプリングを1mm縮ませるのに何Nの力が必要か」という話です。
N・mmではなくN/mmです。つまり掛け算“・”ではなく割り算“/”でゴザイマス。
いろいろな記事でN・mを持ちいたものを見かけます。不正解ではありませんが、視点が違っていて正確な表現ではないということになります (◎_◎;)
DE、これとよく混同されるのがスプリングの「プレロード」です。
スポーティなオートバイにはこのプレロード調整機構が備わっているものがあります。この説明が実にややこしくてですね、お客様はサスを硬くする機構と勘違いしてしまうワケです。
プレロードを高くしてサスを硬くしよう、とかですね。
実はバネの硬さはバネ定数(スプリングレート)できまります。
定数というだけあって固定値です。つまり、いくらスプリングを圧縮してもバネ自体のもつ反発力は変わらないということです。
この反発力を変えることができるのは電子制御式エアサス一択になりますね。
では、スプリングプレロードとは何か。
まずプレロード0とは、バネがまったく縮んでいない状態つまり「設計自由長で荷重ゼロの状態」を言います。
この段階から少しづつ荷重を掛けていくと、バネはゆっくりと動き出し、まだそのバネ定数に対し余裕がある状態です。そして本来のバネ定数までの荷重を掛けたところで、バネは固定されて伸び縮みしない状態となります。
これの具体を示しますと、
■オートバイに乗ったとき車体が沈み込む状態をプレロードが掛かっていない、
■跨っても車体の沈み込みがない状態をプレロードが掛かっている
と言うんです。
つまりプレロードを掛けるとサスペンションの動き始めが遅くなります。それでライダーは『サスが硬くなった』と感じるワケです。
そして動き始めが遅くストロークも予め沈み込んでいる為に短いので『ゴツゴツ硬い』と感じるという寸法です。
実はオートバイの旋回性能は車体のピッチングモーション、つまり前後のサスペンションの動きで違ってきます。
ブレーキングでフロントが沈む、リヤサスが伸びる→フロントフォークが立つ(鉛直線に近づく)→キャスター角が立つことで旋回性能が上がるという寸法です。
ですから、プレロード機構とはそのサスの初期荷重を変えることでサスの動きを変えるものです。
そのライダーの感性に沿ったコーナリングや直進性に調整することができる機構というワケであります。
お話を最初に戻しますが、
キックのリターンスプリングはこのプレロードを掛け過ぎていて常時負荷が高い状態であったと思います。それで経年劣化が進んだのではないかとの仮説です。
この仮説を検証することは我々では不可能です。。。我々には耐久試験装置などないですからね。
逆を申しますと、
だからメーカーは凄いんですね。こんなところまで計算して部品設計するのですから (◎_◎;)
ノーマル主義バンザイ ヽ(^o^)丿

見事にポッキリいってます (◎_◎;)

この短い方がクランクケースに飛び込んでおりました
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
短い破片ですが… ギヤが噛み込むには充分に長いですよね。
<関連記事>