整備技術
グリスの化学反応のゆくえ
オートバイの長期保存を考える(その2)
この仕事をしていると長期保管されたマシンを良く見ます。
分解してみると、ほぼ例外なくすさまじい光景が現れて参ります。
トップ画像ですが、リアホイール周りのベアリングです。これがウンともスンとも動かなく、ビクともしません (◎_◎;)
原因は馬鹿デカい圧力がこのベアリングに作用したからなんでしょう。
これでホイールを無理に回したりしたら、ホイールかアクスルシャフトはお釈迦でしょうねぇ...
そんなこんなで今回はグリスについてのお話です。
グリスというと一見「ベタベタした粘着性の高い油」のように見えます。
しかし実際には、
■基油(実際に潤滑するオイル)
■増ちょう剤(オイルを保持するスポンジ)
■添加剤(極圧剤・防錆剤など)
の集合体です。
まあ、液体オイルをスポンジに閉じ込めたモノに近いイメージです。
DE、ここが重要。
グリスは走れば減ります。ですが時間経過で“変質”するモノでもあります。
【長期間でグリスに起きる化学変化とは】
まず起きるのが基油の酸化です。基油は炭化水素(HC : ガソリンやエンジンオイルと同じ成分)でして、酸素・熱・金属接触で徐々に酸化していきます。
すると、
■過酸化物
■アルデヒド
■ケトン
■カルボン酸 などへ変化していくそうです(シリーズ・オブ・ザ・しらんけど)。
酸化が進むと分子同士が結び付き、元々サラサラだった炭化水素分子の反応性が増すことで更に勝手に分子同士が結合します。そして巨大化していく現象(樹脂化)が起きます。
つまり、小さく流動性を持っていた潤滑分子が巨大な樹脂状分子へ変化していくワケです。
■ロウのように硬化
■ネバネバ化
■飴状化
■カチカチ、乾燥ヒビ割れ化 しちゃうのです。
放置車両の古いグリスなど、パッと見で「乾燥」しているだけのように見えるんですけど。
つまり、長期放置されたグリスとは、「油が残っている」のではなく、『潤滑剤だったモノが、別の物質(宇宙からの物体X)へ変化している状態』です。
“グリスが残っている”ことと“潤滑性能が残っている”ことは全然違う!と覚えて頂ければ (;^_^A
【極圧潤滑性能は突然死する】
ここで厄介なのが極圧添加剤です。
ベアリングやリンク周りには非常に高い圧力が掛かります。その時、極圧添加剤(EP剤)が働きます。硫黄系、リン系、モリブデン系などが有名です。
高荷重時では通常の被膜は時に破れてしまいます。
DEすが、金属表面と化学反応し瞬間的に新たな被膜を作ることで金属同士の直接接触を防ぐ仕組みです。
しかし、これら添加剤も長期間の酸化、熱、水分、金属接触で徐々に消耗・分解していきます。
グリス劣化の初期は静かで、普通に回る、普通に動く、何となく使える感じで刻が過ぎます。
しかし、あるラインを超えると急激に油膜切れを起こし、金属同士の接触を招き摩耗が増加して焼付きや金属カジリが一気に進行するワケです。
グリスは“ある地点で突然死する”リスクあり。ここがとっても怖いところデス。
【水分はグリスにも牙を剥く】
そして前回のガソリン編と同じく、ここでも厄介なのが水分です。
ホイールベアリングなどの軸受け部分に雨、洗車、結露などで微量水分が侵入します。
すると、
■防錆剤の劣化
■増ちょう剤の崩壊(樹脂化)
■乳化(カフェオレ色)
■酸化促進(金属腐食) などが起きます。
特に長期間オートバイが動かされない場合、同一点に荷重が掛かり続けます。
すると油膜が維持できなくなって、微小振動や酸化が重なってフレッティングコロージョンという表面損傷が進行したりします。
停止中もゆっくり進行する化学変化をしっかり認識しないとなりませぬ。
【グリスは「残っている」だけでは意味がない】
グリスアップされているコトと潤滑状態が維持されているコトは全くの別モノだということでゴザイマス。
見た目にはグリスが残っていても、化学変化(劣化)が進行していれば、むしろ金属を守るどころか、摩耗を加速してしまう結果にもなります。
そんなこんなで、、、
オートバイの長期保存。
ここでは「グリスがあるから大丈夫」ではなく『そのグリスは、まだ潤滑剤として生きているのか?』を考えないと、ですね。
■グリス→ベタベタしてる→生きてる =✖
■潤滑剤は永久ではない =〇
■劣化グリスは“潤滑剤”から“摩耗加速剤”へ変貌したもの =◎
「動かさない」ことは、金属、液体、樹脂、ゴム、電装、潤滑剤それぞれで進行する時間的変化を決して穏やかにはしないのです。
予防するには分解して古いグリスを拭き取って、新しいグリスを再塗布する。。。
そういうコトです (◎_◎;)
DE、今日の結論は??というコトですが、
フツーのユーザーさんは「オートバイを車庫に眠らせてはイケナイ」のです ('◇')ゞ
なんのこっちゃ (◎_◎;)
ご安全に。

これはマスターシリンダピストンの腐食。グリスではないですが古い油がここまでの劣化を引き起こします (◎_◎;)
<関連記事>